午睡と虫養い

観た映画・ドラマの感想。時々漫画と本も。

82年生まれ、キム・ジヨン

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82年生まれ、キム・ジヨン

klockworx-asia.com

 

2020年10月9日公開。公開を楽しみにしていた映画の一つです。10月10日に観てきました。

土砂降りだったら観に行くのを諦めるところでしたが、お出かけできる程度の雨だったので助かりました。台風が逸れてくれてよかった…!!

 

80年生まれの私に刺さりまくりだった原作がどう映像化されるのか、楽しみ半分不安半分でした。原作通りなら完全鬱映画になるだろうし、かと言って変に改変されたらそれはもうキム・ジヨンではなくなるし。

結論から言うと、私は「良い映像化!」だったと思います。ジヨン氏が感じている閉塞感を見事に視覚化してくれていました。これだけでも映像化した意味はあった。

※余談ですが、育児の辛さが描かれる場面で映画『タリーと私の秘密の時間』を思い出しました。この映画、ファンタジックな雰囲気漂う邦題からは想像つかないくらいしんどい映画です…(原題も『Tully』なので内容は想像つかないけど)

タリーと私の秘密の時間(字幕版)

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  • 発売日: 2019/04/03
  • メディア: Prime Video
 

 

でも物申したいところもあったので(笑)ネタバレありで以下書いていきます。

 

 

先に「良かったところ」から。

 

原作は現在のキム・ジヨン氏の異変から始まって、ジヨン氏の生育歴を順に追っていく形式ですが、映画は現在のジヨン氏の脳裏に過去の記憶として浮かび上がる形式を取っています。これは上手いなと思いました。ただ追っていくだけだと映画としては単調になってしまっただろうから。

祖母・母・娘、それぞれの「女というだけで受ける、社会からの理不尽な扱い」「尊重されない立場」を描いているところもとても良かったです。これは映画オリジナルですね。良い脚色でした。連綿と続いているのに断ち切れない辛さが、ひしひしと伝わってきました。ミスクさんが息子に漢方薬を買ってきた夫にブチ切れるシーンでは思わず私も泣いてしまったよ…劇場内で、同じく泣いている雰囲気の人が何人もいました…その気持ちわかる…

原作にあった「ジヨン氏の母・ミスクさんが商才を発揮して実質大黒柱の役割を果たした」という点は映画では明確には語られていなかったのが少し残念でしたが、分かる人には分かるようには描かれていたので(自分も現場に立っているとはいえ、あの感じだと原作通り店のオーナーなんですよねきっと)まあ良し。

 

キム・ジヨン役のチョン・ユミさんの演技が素晴らしかったです!!

「大丈夫」という言葉と表情のちぐはぐな感じ、何か言いたいことがあるのに言えない、焦燥感、閉塞感、しんどさ。

小説だと登場人物の内面をいくらでも書くことができますが、映像だと「台詞と台詞無しの部分(言葉ではなく表情や体の動きで伝える部分)のバランス次第」なところがあり、そのバランスが悪いと作品自体が台無しになります。*1

その点チョン・ユミさんは過不足なく、絶妙なバランスで演じていて本当に素晴らしかった。素敵な俳優さんに出会えて嬉しいです。

 

 

さて。ここからはちょっと不満というか文句というか。

 

まず精神科医が女性になっていたので「ああこれは原作とは別の結末だな…」と分かってしまって、それが少し残念でした。かと言って男性医師設定にして、男性医師に最後に「あなたは悪くない」とか言われても鼻白んじゃうでしょうし…難しいところかもしれない。

でも、精神科医の性別がわからないように後ろから撮るとか、そんな感じでも良かったんじゃないかなあという気はしました。

 

ジヨンの夫・デヒョン。

原作では「全く気づいてない人」ですが、映画では「何かに気づいているけれども明確には気づいてなくて、頑張ろうとはしている人」になっていました(中の人がコン・ユ氏だから、悪い夫設定ではないんだろうな、とは予想していましたが)(ひどい予想の仕方だ)

これがね、良くもあり悪くもあり…正直に言うと私はイライラしてしまいました。

例えば、ジヨン氏のことを心配はしているけれども、家事育児を手伝っているようで手伝ってなかったよね! 育児でも楽なところばっかりやっていたし、ジヨン氏が山盛りの洗濯物を畳んでいるのにそれ見ながらビール飲んでたし!!! ジヨン氏を心配するならまずお前がすぐにできることをやれ今すぐやれ!!! 本当にジヨン氏を心配しているのか!? 自分の負担が増えそうで嫌だからジヨン氏を心配しているフリをしているだけなんじゃないのか!?!?

(この辺がすごくリアルだなあとも思いましたが…「大丈夫?」と聞くくらいなら妻の負担を半分でも自分が背負えばいいのに、それは考えないんだよね。すごく考えが浅い。気遣いが薄い。ジヨン氏も「それは本当に私を心配して言っているのか?」と問い返していましたね)

映画の結末も含めて考えると、デヒョンは一つの希望の光であり救いなんだろうと思います。 この映画にデヒョンみたいな男性が一人もいなかったら、もうね…キツイよね…原作通りのしんどさですよ…だからデヒョンの人物造形も分からなくはないのです。でも!でもやっぱりイラッとしました!!

 

映画の結末。

これは「数多いる『キム・ジヨン』のうちの、ある一人のキム・ジヨン氏の結末」ではあるのですが、あんな「良い結末」を見せられると「なんだ、いろいろあったけど幸せになったんだねヨカッタネー」という、黒い気持ちになってしまいました。我ながら心が狭いけれども。

でも、「私もキム・ジヨン氏と同じだわ」と言う気持ちで観ていたのに、ああなってしまうと「あ、私はキム・ジヨン氏ではない」と、スーッと心が離れていってしまうような、突き放されたような気持ちになる人は多いと思うんですよね…

個人的には、希望を感じさせつつも、具体的には明示しない、ボカした感じの結末にしてほしかったなあ。あるいは、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』最終回のような。

 

映画のコピー。

「大丈夫、あなたは一人じゃない。」

観賞後にポスターを観ていてこのコピーに気づきました。気づいたのが観賞後で良かった。

何が大丈夫なんだろう。一人じゃないからなんだって言うんだろう。

読めば読むほど何が言いたいのか分からない、的外れなキャッチコピーのように思えます。無性に腹が立ってくる…これじゃあジヨン氏個人が鬱々と悩んでいるだけの話、みたいに捉えられてしまいかねないよ。そうじゃない。『82年生まれ、キム・ジヨン』は原作も映画もそういう話ではないんだよー!!

 

 

 

……つい不満もつらつら書いてしまいましたが、それでも映画『82年生まれ、キム・ジヨン』はとても良い、意味のある映画だと思います。是非たくさんの人に観てほしいです。そして併せて原作も読んでほしい。

 

82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン

 

 

ここからは余談!!!

韓国ドラマで見知った俳優さんが何人か出演されてたのでメモ!!!

 

・ヨム・ヘランさん:ジヨン氏をバスで助けてくれた女性役。『トッケビ』の意地悪な伯母さん、『椿の花咲く頃』でジャヨンを演じていた人です。

・キム・ミギョンさん:ジヨン氏の母・ミスク役。『ゴー・バック夫婦』のお母さん、『サイコだけど大丈夫』のお母さん役。

・イ・オルさん:ジヨン氏の父役。『サイコだけど大丈夫』のコ・ムニョンの父役。気づいたとき(気づけた自分がw)嬉しかったー!!!!

 

*1:と、私は常々思っているんですがどうでしょうか。