午睡と虫養い

観た映画・ドラマの感想。時々漫画と本も。

マジカルグランマ

 

マジカルグランマ

マジカルグランマ

  • 作者:柚木 麻子
  • 発売日: 2019/04/05
  • メディア: 単行本
 

 

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マジカルグランマ/柚木麻子

大変面白かったです!!柚木さんの作品は初めて読みました。

なぜこの本を読もうと思ったのか思い出せないんですが…まあいいか。 

なお、今回ネタバレが含まれますので、未読の方はスルーでどうぞ。

 

 

というわけで全く予備知識なしに読み始めたので、最初正子さん自身が「おばあちゃん」ということに気づきませんでした(孫から見た「魔法使いみたいなおばあちゃん」の話かとばかり)これも私が「75歳女性が主人公の話なんて」という先入観があったからかも…

 

初めの方こそ「ぼんやりしたおばあちゃんだなあ」と思っていたのですが、夫が死んだあたりから地の正子さんが出てきて面白くなってきました。いるよね、こういう「自分が中心じゃなきゃ嫌!」「それははしたないこと、という意識は持っている。しかし我慢できず表に出してしまって周りに引かれる」っていう人。よく正子さんはこの歳まで周りに合わせて生きてこられましたね…義父母が余程いい人達だったんだろうな。

余談ですが私の実母がこのタイプなので、正子さんの暴走に時々真顔になりながら読んでました…息子の性的指向をすんなり受け入れたのは、この世代の人にしてはすごいなと思いましたが(でもこれも利己的な正子さんだからこそかも。自分が一番なので、もう手を離れた息子のことは割とどうでもいいのかもしれない。作品中では一応彼女なりの理由を語ってはいましたが)

 

節約や日々の生活について事細かに描写されているのがとても良かったです。目に浮かぶようだった。きっと映像だったら一瞬で流れてしまうようなシーンを、言葉で編み上げて表現する。それを楽しむのが小説の醍醐味だなあと改めて思いました。

特に節約では描写が生々しくて「わかるうううう」と。食費の切り詰めはできても、家を壊すとか大きい話になるとピンときていないところも「正子さんらしい」気がしました。

明美さんが実はプロフェッショナルだったり、明美さんの夫が実はデキる人だった理、間島さんが梅ジュースを販売したり、「人は一面では測れない」ということを様々な登場人物を通じて表現しているところも良かったです。

 

失敗は多々ありつつも、割と上手くいってしまうのでそこが引っ掛かる人は引っ掛かるかも。でもいいと思う、小説なんだし。小説でくらい上手くいく人の姿が見たいもの私は。七転八倒七転び八起き、『その女、ジルバ』で「女は四十から!」と名言が飛び出ていましたが、正子さん見てると「ほんとにな!」と思いました。

それに、失敗するか成功するかはともかく、「やってみなくちゃ始まらない」んだよなあ。私もそう思って、ここ数年いろんなことに手を出しまくっています。が、私は手を出しただけで満足しちゃうのがいかん…正子さんとは友達になりたくないですが(笑。しつこい)彼女のバイタリティは見習わなきゃね。

最後の杏奈からの手紙には爆笑してしまいました。そんなオチ!?それでも奮起する正子さんは天晴れですね。超面倒臭いしほんと友達にはなりたくないけど。我を通すことと周りとの調和については一考の必要がありますが、彼女のように「マジカルグランマにはならず、己を貫き通す」というのも大事なことだと思います。それによって被る不利益も、彼女は喚きながらも引き受けているのだし。

 

2018-19年に書かれた本らしく、#MeToo やメルカリが盛り込まれているところも良かったです。無意識の差別やその助長に加担している、と気付くところも。また、気づいたことと作品への評価をどうするべきかについても。

 

総じて大変面白かったです。映画化か連ドラ化(長さからいって連ドラ向きかも)したら面白くなると思うんだけどな〜