彼女の名前は/チョ・ナムジュ
小説を読みながらおいおいと泣いてしまったのは初めてかもしれません。
短編集です。しかも一編一編がかなり短め。短めなのですが、それぞれの女性の思いがギュッと凝縮されていて、胸を突かれます。
もう冒頭の「二番目の人」でズシンときたというか。「えっこういう話がずっと続くの? それは読むのしんどいな…」と怯んだくらいです。
でも読んで良かった。読後は登場している「彼女たち」とスクラムを組んでいるような気持ちになりました。
1.二番目の人
冒頭がこの作品ですからね…訳者あとがきに、この作品が冒頭に置かれた理由について、直接作者であるチョ・ナムジュ氏に疑問をぶつけています。少々長いですが引用します。
読者に、この本についてあらかじめ伝えておきたかったからだと。決して明るくて楽しいエピソードばかりが並ぶ本ではない。むしろ、直視するのがつらいほどの現実が目の前に広がる本なのだと。それをまず、読者に伝えておきたかったと。
抵抗したり、抗議する女性は強く見えるかもしれない。でも、実際には恐怖とも戦いながら行動しているんだと思います。「二番目の人」のソジンもそうです。そんなにボロボロになってまであなたがやらなくてはいいのでは…と、つい思ってしまいました。
しかし「当のソジンが、そうすることができないでいる。」というのもよくわかる。ソジンは決して好戦的な人ではないだろうし、誰だってこんな戦いはできればしたくないでしょう。それでもやめるわけにはいかない。
三番目、四番目、五番目の被害者を作るつもりは、ない。
2.ナリと私
「私」は「果たしてこんなふうでよかったのかなと思う」と言っていますが、ナリには十分な支えになっているんじゃないかなあ。こういう先輩が一人でもいるだけで全然違うよね、職場環境って。
でも「それだけでは足りない」と決意しているところが良かったです。同じような、いや、もっとひどい扱いを受けてきた年長者だからこそ、これからできることがたくさんあるはず。しんどいけど。それを次に受け継がせるわけにはいかないから。
3.彼女へ
これはファンの身になってみると辛い。あ、でも喜ぶファンもいるのか…余計に辛いね。
私は昭和の頃の、テレビでの女性に対するひどい扱いを知っているので、読んでいてよりムカつきました。あの頃よりはきっと日本も韓国もマシになっている…と思いたいですが、そうでもないのかな(愛嬌ポーズの要求はだいぶ減ったようですが)
ウォンは矜恃を持っているようなのでまだ安心ですが、アイドルに限らず、女性は幼い頃から知らず知らずに「ケアする立場」「可愛らしくあること」等(挙げればキリがないですが)社会に刷り込まれています。いい加減にして欲しい。もう2020年だよ。
4.若い娘がひとりで
ソウルに出てきた若い娘が、手紙で近況を母親に知らせる…という体で書かれています。
初めは穏やかな内容なんですが、徐々に韓国(ソウル)の労働者の実情、若い女性が遭遇する理不尽、そして母娘関係が浮かび上がってきます。
キム・ジヨン氏のお母さんはすごい人、良妻賢母の鑑みたいな人だったけれど、この短編に出てくるお母さんの方が現実に近い気がします。同性の子供に当たってしまう人はいる。許されないことですが。
ただ、お母さんの苦労と努力について書かれてもいるし、書き手(娘)もそこは理解しているので、簡単に断罪もしかねるという…
この主人公には、良き友に恵まれて、自分の人生を歩んでほしい。過去など振り返らず。故郷は遠きにありて思ふもの。帰るところにあるまじや。
5.私の名前はキム・ウンスン
ようやく少し希望と温もりが感じられる話。外野はいろいろうるさいし、理不尽な目にだって遭う。でも「ときめきつづけられるキム・ウンスン」として生きつづけてほしい。応援したくなる/してもらっている気持ちになれるお話。
6.大観覧車
母と娘のお話。母と娘の関係って本当に難しい。私は仲の良い、親子の情に溢れた母娘関係って、全体の1割もないんじゃないかとすら思っています。
読み返してみると、「はっきり書かれていない点」がいくつかありますね。そこに思いを巡らせるのもいいかもしれません。
7.公園墓地にて
ケアを無言で押し付けられる女性のお話。つい先日もこんなニュースがありました。
ケアする立場の人は誰にも顧みられないことが多くて辛いですね。子育てもそう。介護もそう。そしてその大半が女性に負わされ、男性は自覚することもないのです。理不尽。
主人公は兄姉と縁を切っていいと思うよ。自分の道を行こう。
(余談ですがこの本を注文中)
8.離婚日記
これも辛い。でも離婚までたどり着いた主人公は頑張った。えらい。
私も息子がいるんですが(結婚することはないと思うけど)どうして母親は息子に干渉するんでしょうね。わからん。私なんて独立してくれたら万々歳で、自分の楽しみに時間を費やすけどな。あ、その「自分の楽しみ」が「息子の世話」なんだろうか。辛い。
自分のままでいて
本当に、大切なことです。
9.結婚日記。
空気を読まないでいられるのだって権力だよ
それですよそれ。空気を読まないで従わずにいられるのは権力を持っている証。
妹の彼氏はまだ望みがあるかなー、と思ったんですが最後の台詞で真顔になってしまった。こいつも危険だぞ…!
10.インタビュー ーーー妊婦の話
明るい口調だけど、その体調でよくぞ頑張ったね…でもここまで頑張らないといけないの? と脱力もしてしまいます。冒頭の「二番目の人」もそうですが、なぜここまで声を上げて行動しなくてはならないのか。
最後の下り、最初読んだときは文字通り受け止めてしまいましたが、これはあれですね、きっと何にもしなかったんだな…はーやだやだ。
11.ママは一年生
それでもママたちは、仕事を持っていようが専業主婦だろうが関係なく、助け合い、自分のベストをつくしている。チヘは思った。変わるべきはママたちではなく、夫と学校と会社と社会だと。
泣いてしまったよ。そうだよ。その通りだよ。
でもチヘは実母の手を借りることができているから、これでも相当マシな方なんだよね。そういう手が借りられない人は…(ため息)
12.運のよい日
韓国ドラマ・映画・小説に触れるようになってつくづく感じるのは「庶民にお金がない」。お金がありそうなのは財閥くらいで、いわゆる中産階級の存在が今ひとつ感じられないのです。まあ日本も同じだけれども。
そうした「普通に頑張って働いているけれどもお金は入ってこない」家庭がリアルに感じられました。日本もそうだけど、こんな社会はおかしいよ全く。
13.彼女たちの老後対策
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なかなか書ききれないのでここで一旦アップします!