午睡と虫養い

観た映画・ドラマの感想。時々漫画と本も。

ミナリ

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※画像は公式サイトのスクリーンショット

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『ミナリ』映画パンフレット

gaga.ne.jp

 

 

2021年2本目。2021年3月21日に観てきました。

映画館に行っていなかったため予告編も全く観ることなく、でも興味を惹かれて観に行ってきました。どうせなのであらすじに関する情報は全部シャットアウトして。

 

冒頭部分、「本当に男ってやつは…離婚しちまえよ!」と思ってしまったのですが、観ているうちに「まあ、そう思っても一筋縄ではいかないのが人生だよね…」と、(良い意味で)なんとも言えない気持ちになりました。この「なんとも言えなさ」が『ミナリ』の良さの一つじゃないかな(名画とか名作って、「言葉にできない」感情を湧き上がらせてくれるところがあると思う)

 

長くなったので続きは折りたたみます。それから多少ネタバレありです。

 

 

 

ジェイコブは「男とは」「父親とは」といった価値観に縛られていて、かつ、それを盾に無自覚に自分の意思を優先させる人。モニカに対し「教会に行ってみようか、友達がいなくて寂しいだろう」「お母さんを呼ぼうか」等、悪い人ではない…と思いますが、いやそもそもの原因はお前だー!と言いたくはなりました。

時代や登場人物たちの設定を考えると無理もない気もしますが、それにしたってね。

 

モニカは、作品内での描写はなかったものの、きっと子供たちのお友達付き合いとか家計のやりくりとかデイビットの病気のこととか、良い子だからこそ心配なアンのことなど、間断なく選択し続け、それに伴う責任を負い続けていると思うんですよ。同じ家庭を切り盛りする立場として、同情せざるを得なかった…

ジェイコブのことは好きなんだろうけどさ、そしてジェイコブも決して悪い男ではないんだけどさ(家族を振り回してはいるけど信念と行動力は確かだし)、家族に大きな影響を与えることを一人で決めてしまうし、病気の我が子の診察だというのにそれにかこつけて野菜の売り込みしてるし、やっぱりずっとついていくのはしんどいよね。想像できるよわかるよ。

 

アンについてはそんなに描写がなかったのですが、この子も結構しんどい立場ですよね。両親の喧嘩の仲裁やら弟の面倒やら…モニカが「ごめんね」と言っていたのが、観ている私にとっては救いでした。アンにとってはどうかはわからないけど。でもちゃんと言葉にして「私はあなたに背負わせているものの重さを自覚している。そして申し訳ないと思っている」というのを伝えるのは大事だよね。

 

さて、デイビットとハルモニ!(おばあちゃん)

デイビッドがハルモニの存在や匂いを嫌がったりするのは、ああ、小さい子あるあるだよな〜と思いながら見ていました。普段から一緒に暮らしていればどうってことないのでしょうが、初めて会ったのだし想像とは違いすぎるし花札教えちゃうwハルモニだし、そりゃびっくりするよね。

デイビッドの悪戯は酷かった! あれはやりすぎだろーだめだよー

でもあれに対するハルモニも良かったね。デイビッドがジェイコブに棒を持ってこいと言われて、ほっそい枝を持ってきた時の反応も良かった。「お前の勝ちだ!」にはほんと笑ってしまった(劇場内でも少し笑いが起きた)

 

 

映画を観ている間「禍福は糾える縄の如し」という諺が頭の中でぐるぐるしていました。

福も、禍も、ぐるぐると縄のように撚り合わせられている。

落ち着いたと思ったらハリケーン。水が出たと思ったら枯れる。実母が来てくれて嬉しいと思ったら息子が拒否反応を示す。教会に行けば気持ちが晴れるかもと思ったらそうでもなかった。ハルモニと孫が心を通じ合わせたと思ったらハルモニが倒れる。息子の心臓が自然治癒しそうだと思ったら夫が野菜を売り込んでいた(そのために来たんじゃないのに!)挙句野菜が売れたと思ったら小屋ごと燃える。*1

 

でもそこで『ミナリ』なんだなあと。

タイトルの「ミナリ」は、韓国語で香味野菜のセリ(芹)。たくましく地に根を張り、2度目の旬が最もおいしいことから、子供世代の幸せのために、親の世代が懸命に生きるという意味が込められている。

ー『ミナリ』公式サイトより引用 

なんだかんだあって、一度目の収穫は燃えて消えてしまった。でも、きっとジェイコブはハルモニが育てたミナリを売ってまた再出発するでしょう。そして、2度目の旬を迎えるんだと思う。その後もまた、一度目、二度目、一度目、二度目と旬を迎えながら暮らしていくんだろう。それが人生。 

 

 

以下余談。

 

ちょっとーーーーー!!ハルモニ役のユン・ヨジャン氏、『ユン食堂』のユン社長じゃないですかーーーーーー!!!!友達のブログに書いてあって本当にびっくりしました。ええええわからんわーーーーーーーハルモニが強烈で同じ人とは思えなかったよ!俳優すごい!!

 

ヒヨコの雌雄を選別する仕事(これが結構難しいそうです)、と聞いて真っ先に浮かんだのが『フラワー・オブ・ライフ』(著・よしながふみ先生)でした。主人公の両親が、ジェイコブとモニカと同じ仕事してるんだよね〜

なんてことを思い出した人はどれくらいいるんだろうw(でも割といそうな気もする)

 

 

 

*1:未見なんですけど『バーニング 劇場版』(村上春樹『納屋を焼く』が原作)にジェイコブの中の人スティーヴン・ユァンが主演しているそうで、この人は建物を焼く映画に縁があるのか?なんて思ってしまいました。2作品だけだけどさ。